明るい部屋/延命治療

いま突如とてつもない幸福感におそわれてしまって久々に日記でも書いてみようと思いたつ。
なんていったって3連休だし、土曜の夜は終わろうとして、外は少しずつ明からみだし光が部屋に差し込み始めている。窓を全開に開けると冷たい風がわーっと入ってくるのだが、顔を出してみると外の匂いがほんとにたまらなくて夜明けの外の匂いはどうしてこんなにも僕を幸せな気分にしてくれるのだろうか。しかも土曜の夜が終わってもまだ休みは2日間もあるのだし明日は江ノ島だし、いま宿の人からもらった柿でパウンドケーキを焼いている。美味しく焼ければいいと思う。美味しく焼けたら明後日の友だちの誕生日会に持っていこうかとも考えている。ステレオからはJudee Sillのライブ盤が流れている。その前はJohn Butler Trioでその前はinnocence missionが流れていた。どの曲もたのしかった思い出に包まれている。これはたまたま600枚くらいCDが並んでいる棚から最初友だちの誕生日を思ってinnocence missionのHappy Birthdayを聞き始め、去年の同じく11月の幸せすぎた友だちの誕生日会を思い出し、Iの隣はJでジョン・バトラーさんなので続けてかけたら去年のフジロックなんて思い出しほんとあれはかっちょよすぎたので最高に楽しかったことだし、その隣にあったのはジュディー・シルだったのでジュディー・シルは言わずもがなルームシェア時代に何度も流れていた気がするのでほんとに音楽は思い出でできているとしか言いようがない。思いで要素の欠けた音楽に人を感動させる力なんてほとんどないように思うし、だから音楽とは時と共に美しく育つのだ。そんなこと考えてたら日記のタイトルがこんなんになりました。
打倒やまだないとをかかげてマンガを書き始めたものの、僕には創作の才能がないのだとあらためて思い知らされ、4時間前は何もやる気がしなかったのだが、写真なんて整理してたらたのしい瞬間ばかり切り取られていて5回くらい泣いてしまった。ほらこんなにも僕は幸せだったじゃないか、まだ頑張れると元気取り戻し会社のパソコンを開き小説を書き始めたらたいそう面白い小説が書けそうで、オーブンからはいい匂いがしてくるしジュディー・シルは良すぎるのでいまはほんとに幸せなのだ。
煙草も進む。この4時間で10本くらい吸っているが、煙草と言えば僕が鳥取のばあちゃんち帰ったときの話だ。ばあちゃんとふたりで食卓囲んでいると、ばあちゃんが突然大ちゃんは煙草は吸うのかねえ、と唐突に聞いたので僕はびくりとして、いや吸わんよと答える。それがええ、お父ちゃんは若い頃は吸ったけえね。おじいちゃんは煙草のせいで喉にガンができたからね、吸わん方がええ。ばあちゃんはそこまでを一息で話す。へえ、と思った。歳が50も離れた僕らの共通の話題は、親父と死んだじいちゃんのことくらいで、あとは学校はどうだえ、とか彼女はおるんか、とかそんなくらいだった。それにしても親父が煙草を吸っていたということには驚いた。真面目一辺倒とも言える親父は僕にとってつまらない人間にしか見えなくて、ずっと反抗し続けてきたが、ちょっとそのときはかっこいいと思ってしまった。昔、まだ僕が中学生くらいの頃、家族が誰もいないときを狙い、親父の部屋にあったアダルトビデオを盗み見ることが習慣だった。そのとき、煙草の箱が、いま思い出してみたらLARKではなかっただろうか、親父の机の上においてあって、煙草を吸わない親父が何でだろうと思ったことを思い出した。母親に隠れて吸っていたのだろうか、なんだかそういうことを考えると楽しくなった。大ちゃんが加代子さんの体にいるとわかったときによ、お父さんは煙草をやめたのよ。産まれてくる子供に何かあったらいかんからなあと言ってねえ。ばあちゃんは話を続けた。僕はなんだかこそばゆい気持ちになってたけのこを口に運び続けた。
食器を洗うのを手伝い、その間にばあちゃんはわざわざ2階に上がり布団を敷いておいてくれたので、おやすみーと言い僕は上にあがった。窓を全開にしてKOOLに火をつけた。母親は絶対煙草ダメ主義の人なので、いくら母親や親父がいないファーフロム東京でも、当然母親に告げられる可能性があるばあちゃんに煙草がばれるわけにもいかないのだ。ところで親父が若い頃煙草を吸っていたというのも驚きで、あんな堅い男が、とも思うし、よく考えてみれば、僕ができてやめたということはそれまでは吸っていたということであり、母親と親父が学生時代に付き合っていた頃とかは親父はまだ吸っていたということにもなるので、母親は根っからの絶対煙草ダメ主義ではないというわけなんだろう。というここまでは小説の一節を抜き出したものである。つまらない部分を抜き出したものであるので本当の小説はこの10倍くらい面白いので僕は叫ぼう。小説の自由を!ちなみに『明るい部屋』がフローベールに影響を受けているように、僕のこの作品は金井美恵子に大きな影響を受けていることも先に言っておこう。今日『小春日和』読み終わったんだけどおもしろすぎて焦った。とかなんとか言ってたら柿のパウンドケーキが焼けた。いま食べたらちょーおいしくてやばい。今日はなんという幸せな土曜の夜なんだ。あした起きれるかしら